「いらっしゃいませ、何名様ですか」
その一言が出なかった日がある。お客さんが入ってきて、笑顔で向かえようとした瞬間、喉が詰まって声が出てこない。後ろにも次のお客さんが来ている。焦れば焦るほど、余計に詰まる。
飲食店のバイトは、吃音持ちにとって戦場だった。
一番つらかったのは、お客さんの優しさだった
吃音でバカにしてくるお客さんもいた。でも、一番つらかったのは優しいお客さんだった。
声が詰まっている僕を見て、「大丈夫だよ、ゆっくりでいいよ」と言ってくれる人がいた。その言葉が、逆に泣きそうなくらい刺さった。
気を遣わせてしまっている。迷惑をかけている。そう思うと、余計に萎縮してしまう。吃音の厄介なところは、意識すればするほど悪化するところだ。
でも、忙しい時は吃音が出なかった
不思議なことがあった。ランチのピーク時、死ぬほど忙しくて頭が追いつかない時間帯——その時間だけ、吃音がほとんど出なかった。
考える暇がなかったからだと思う。「次は何を言おう」「うまく話せるか」というシミュレーションをする余裕がなくて、反射的に口から言葉が出ていた。
逆に言えば、普段の僕は一回の接客に気負いすぎていた。完璧に話そうとしすぎていた。それが吃音を悪化させていたんだと気づいた。
失敗しながら続けた先にあったもの
バイトを続けるか何度も迷った。でも辞めなかった。
続けていくうちに、少しずつ変化があった。吃音が出る頻度が減った。出たとしても、引きずらなくなった。「また出た、まあいいか」くらいに思えるようになった。
失敗に慣れていくことで、失敗への恐怖が薄れていく。恐怖が薄れると、緊張が減る。緊張が減ると、吃音が出にくくなる。
飲食店バイトは、僕にとって一番ハードな訓練場だった。でも続けてよかったと今は思っている。
吃音があっても、働ける
吃音を持っていると、接客業は向いていないと思いがちだ。僕もそう思っていた。
でも、そんなことはない。吃音があっても、続ければ慣れる。慣れれば改善する。完璧に話せなくても、誠実に向き合っていれば伝わる。
怖くても、飛び込んでみてほしい。その先に、必ず何かがある。

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